14.ご近所の方から聞いた昔話
「キツネとトロッコ」

 

 今の下高井戸の日本大学が建設された遠い昔の事です。少し前まで一面の雑木林だった辺り一帯は、校舎を建てる為に丘が切り崩され、緩やかな斜面に変わっていました。
 ある日、一人の少年がこの丘に遊びに来ました。工事現場にあったトロッコを緩やかな丘の上まで押して行き、上まで行くとトロッコに飛び乗り斜面を滑り降り、下に着くとまたトロッコを押して丘を登りまた滑り降りる、これを繰り返して遊んでいました。
 余り遅くなったのでお兄さんが迎えに来てくれました。そして夕日の林を抜けておうちに帰りました。帰ってからお兄さんが言いました。「お前、ぼくが迎えに行った時ずっとキツネと遊んでいたぞ。お前、まさかキツネに化かされたんじゃないだろうね」。
 その晩、祈祷師が呼ばれてキツネ憑きを払うおまじないがなされました。でも少年にはキツネに会った記憶なんて全然ありませんでした。
 これは桜上水にお住まいの中村さんからうかがったお話です。今聞くと信じられないようなお話ですが、私は本当のお話だと思います。ついこの間まで、私達はこんなお話が生まれる位自然とすぐお隣で生活していたのです。
 中村さんのお爺さんが永福町の婚礼に呼ばれ、頂いたご馳走の包みを下げて今の明大前の辺まで帰って来ました。何匹ものキツネが周りをうろつきながらご馳走を欲しがったそうです。世田谷区にはキツネやタヌキやカワウソに恩返ししてもらった人間のお話が幾つも残っています。私達の生活が本当に自然と隣りあわせだった証拠でしょう。